映画『空と風と星の詩人 尹東柱の生涯』韓国で知らない人はいない詩人を描いた初めての映画

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シネマート新宿で、2017年「ハートアンドハーツ コリアン・フィルムウィーク」のラインナップに入っている映画『空と風と星の詩人 尹東柱の生涯』。愉快な内容ではありませんが、良い作品です。

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『空と風と星の詩人 尹東柱の生涯』

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キャスト
監督:イ・ジュニク
「王の運命」(原題:サド(思悼)」の監督さんですね。

ユン・ドンジュ:カン・ハヌル
ソン・モンギュ:パク・チョンミン
日本の高等刑事:キム・インウ

原題:동주(東柱)
予告編

あらすじと感想

映画は、まさにあの時代を反映した白黒画面です。
日本の植民地時代に獄死した詩人・尹東柱がタイトルですが、
ドンジュの従兄ソン・モンギュも同格の主人公です。

白黒でみたシーンをカラーでみるとヘンな感じです。
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人間ユン・ドンジュ

ユン・ドンジュは韓国であまりにも有名で、
私ですら、その詩の最初の数行をそらんじることができるほど、
国民的英雄詩人です。

カン・ハヌルは、そのユン・ドンジュを演じるにあたり、
「逃げ出したい、どころか、本当に逃げようと思った」
ほどのプレッシャーに苦しんだそうです。
そりゃ、そうでしょうねえ。

一方のソン・モンギュは、独立運動の青年リーダーであったにもかかわらず、
あまり知られていない人物です。

でも、演説はうまいし、さらっと書いた文章は新聞に載っちゃうし、
大学も、ドンジュは落ちたけどモンギュは合格するし、
ものすごく優秀な人物です。
いや~、格好いいです。ドンジュより断然、モンギュに惚れます。

映画では、「英雄ユン・ドンジュ」が、
モンギュに嫉妬したり、劣等感を抱いたりする
「人間ユン・ドンジュ」の姿が描かれます。

後列右側がユン・ドンジュ、前列真ん中がソン・モンギュ。
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詩人と独立運動家

印象的なシーンに、
いつも自信なさげなドンジュと、
自信たっぷりでリーダーシップのあるモンギュが
雑誌を作っているときに、意見の対立が起きるという場面があります。

モンギュは、文芸も独立運動の道具と考え、
ドンジュは、文学は手段じゃないと主張しますが、
モンギュが「わかったよ」と折れます。

私は、文学、とくに詩の価値がわからない人間ですから、
迷わず行動するモンギュ支持です(笑)。

でも、モンギュはこの議論でもドンジュに折れ、
ドンジュが独立運動に近づきすぎないように守り、
遠くで運動しても、かならずドンジュの元に戻ってきます。

ドンジュって、詩人って、詩って、
ぎりぎりで戦っている人たちの「よりどころ」なんだな、
と、うっと泣けてきました。

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インタビューで語られたエピソード

映画を見た後、ユーチューブでインタビューをいくつか見ました。
ドンジュが、日本の立教大学に入学後、
教練を拒否したため、バリカンで頭を刈られるシーンがあるのですが、
1度しか撮影できないため、リハーサル時に、
二人のスタッフがリハーサル時に、頭を刈ったそうです。
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さらに、バリカンが良く切れなくて、
あまりに痛くて、その痛さが、演技によく反映されたとか。

映画の中で、ドンジュが詩の題名を書くところがあるのですが、
カン・ハヌルが直接かいた文字だそうです。
ドンジュの筆跡に似せるために、代筆を頼む予定だったのに、
カン・ハヌルの書いた文字がドンジュの文字にそっくりだったと。
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今につながる感動

ソン・モンギュを演じたパク・チョンミンさんが、あるインタビューで語っていました。

70年前、歴史に名を残した人、残さず散った人たち、
彼らのお蔭で、今の自分たちがいる。
今の時代を生きている僕たちが、どう考え、どう行動するかによって
70年後によりよい時代を残すことができるんじゃないだろうか、

自分たちと同じような年齢のドンジュやモンギュを演じたことで、
そういう責任感というものが生まれました。

「今」の後ろに過去があり、「今」の先に未来がある、
当たり前のことなのですが、歴史を学ぶって、そういうことだよな、
と改めて思いました。



有名な「序詩」

서시
죽는 날까지 하늘을 우러러
한 점 부끄럼이 없기를,
잎새에 이는 바람에도
나는 괴로워했다.
별을 노래하는 마음으로
모든 죽어 가는 것을 사랑해야지.
그리고 나한테 주어진 길을
걸어가야겠다.

오늘 밤에도 별이 바람에 스치운다

序詩
死ぬ日まで空を仰ぎ
一点の恥辱なきことを、
葉あいにそよぐ風にも
わたしは心痛んだ。
星をうたう心で
生きとし生けるものをいとおしまねば
そしてわたしに与えられた道を
歩みゆかねば。

今宵も星が風に吹き晒らされる。
(伊吹郷訳)

いろいろな人の訳がありますが、一番多く紹介されているものです。

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コメント

    • NICO
    • 2017年 8月 01日

    こんにちは(´∀`)

    私はこの映画、字幕なしで昨年の4月頃に観たんですよね~
    なので、ところどころ忘れてかけているところもあると思いますけども、
    観終わった時は、日本での公開は難しいかな~?と思いましたが、シネマートだけでも公開されると聞いて、よかった!と思った作品ですね。
    おっしゃる通り、内容的には決して面白い内容ではないですけど、いい作品ですものね。

    ドンジュのような、本当にその世界が全ての、そんな才能ある人の側には、モンギュのように理解してくれる人がいてくれるということは大きなことだったろうな~と思いました。
    またモンギュを演じたパク・ジョンミンさんが、ドンジュを包み込むような大きさが感じられて、これまた上手な演技でしたよね。
    カン・ハヌルさんとパク・ジョンミンさんは同じ事務所で仲もいいので、その仲の良さと息が合っているのが作品にも現れていたような気もします。

    ハヌルさんはキャスティングされた頃はまだ、今ほどの人気ではなかったそうですね。
    このドンジュ役は、ユ・アインさんも欲しがった役だったそうですが、ハヌルさんがまだそれほどでもない人気であったのが、イ・ジュニク監督が気に入ったとか…。
    公開される頃には、『ミセン』の影響もあってすっかり人気者になっていましたけどね(´艸`)

    この映画、監督を始め、出演者もみんなノーギャラだったんだそうですね~
    ユン・ドンジュ詩人への最大限の礼儀としてのモノクロだったそうですが、低予算に収めることもまた礼儀の一つだったとか…。
    収益をわけることになっていたそうですが、どうなったんでしょうね(´艸`)
    でも、ハヌルさんも、ドンジュ詩人を演じることが光栄で、髪を刈ることくらいは何でもないことと言っていましたから、ギャラもまた同じなんでしょうかね~下世話ですけども…。

    そうそう。ハヌルさん。
    『セシボン』でも、ユン・ドンジュの又従兄弟になるユン・ヒョンジュを演じていましたよね。
    『もうユン氏を名乗ればいいのに…』と、ユン・ヒョンジュさんにだったかな?言われてましたよ~
    『セシボン』でも素晴らしい歌声を披露してくれたハヌルさんですが、
    この『ドンジュ』でも、ドンジュの詩をモチーフにした『自画像』という歌を歌ってくれてますよね。
    ハヌルさんの歌声が、『セシボン』で初めて聴いた時からとても好きです。

    そして、特高警察役のキム・イヌさん。
    日本人役と言えど、カタコトの日本語しか話せない方をキャスティングされてしまうことも多い韓国作品ですが、
    キム・イヌさんの日本語の滑らかさに、本物の日本人?と思っていたのですけど、
    日本生まれ日本育ちの在日3世の方だったんですね~
    このような方が配役されると、作品を観ていても入り込めるのでとてもよかったと思いました~
    ハヌルさんも練習の甲斐あって、日本語セリフも上手に出来ていた方ですよね?(´艸`)

    そう言えばハヌルさん。もうすぐ公開の『青年警察』でも髪を刈るシーンがあるようですが、役のためなら何でもしちゃう人だな~といつも思います~
    演じる役ごとに、いつも違う顔を見せてくれるハヌルさんの演技がこれからも楽しみです。入隊しちゃうけど…( ̄∀ ̄)

    私も、字幕付きでまたいつか観られたら…と思います(´∀`)
    長々とすみません…。

      • sokjon2016
      • 2017年 8月 01日

      NICO様
      コメント、ありがとうございます!
      私も、この映画の存在を知った時、日本で広く知られている人物ではないし、
      日本に上陸するとは期待していませんでした。
      「ドンジュ」にしろ「ラストプリンセス」にしろ、
      植民地時代の映画がこれだけ上映されているのに、
      「軍艦島」ばかり問題にされるのも、不思議です。

      ドンジュ、ユ・アインの可能性があったのですか!!
      うーーーん、ちょっとくどいかも・・・。
      あ、でもユ・アインも芸達者な人だから、
      できあがれば納得しちゃうかもしれませんね。

      いくつかのインタビュー動画をみましたが、
      おっしゃるように、カン・ハヌル、パク・チョンミン、監督さん、
      とても仲良くて、チームワークが作り出した作品なんだと分かりました。
      キム・イヌさん、どういう人なんだろうかと私も気になって調べました。
      主演も大事ですが、こういう脇役の力も大きいですね。

      「セシボン」数日前に見ました。これもよかったです。
      こちらも実在の人物で、さらにまだご存命中となると、
      また違うプレッシャーでしょうね。

      カン・ハヌルさん、本当にいろんな役をこなして、
      ポスト・ソンガンホかな、なんて期待しています(笑)。

      「青年警察」も楽しみですね。パク・ソジュンも好きです。

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