『フィッシュマンの涙』現代社会への風刺と応援
予告編を見た時はこの映画を見る気は起きなかったのですが、制作者にイ・チャンドンの名前があったので、見なきゃ!となりました。
イ・チャンドンの作品
『フィッシュマンの涙』の監督は別の人で、イ・チャンドンはエグゼクティブ・プロデューサーです。
イ・チャンドンが監督・脚本を務めた作品は、
『ペパーミントキャンディ』(1999)
〇〇光州事件が一人の男の人生をどのように狂わせたか
『オアシス』(2002)
〇〇前科者と障碍者、社会から疎外された人々の話
『シークレット・サンシャイン』(2007)
〇〇息子を殺害された母親がキリスト教に失望する話
などなど「問題作」と言われるものが多いです。
私は『ペパーミントキャンディ』と『シークレットサンシャイン』を見た時、しばらく座席から立ち上がれない衝撃を受けました。
NHKのドキュメンタリー「韓流シネマ-抵抗の軌跡-」という番組で、
「未来を見つめるために歴史を見なければならない。
なぜなら未来は過去の延長線上にあるからだ」
ということを言っていたのが、ものすごく印象的でした。
そんなわけで、気が進まなかった予告編。
キャスト
原題:돌연변이(突然変異)
監督:クォン・オグァン
イ・グァンス:パク・ク
〇〇新薬の実験による副作用で、上半身が魚になってしまった男
パク・ボヨン:ジン
〇〇製薬会社から逃げてきた魚男を売った女
イ・チョニ:サンウォン
〇〇記者であることを隠して取材を続ける青年記者。
イ・チョニさんの独白で映画が始まるのですが、
その声が「聞いたことある~」と気になってしかたなかったのですが、
『主君の太陽』に出ていた人でした。
テヤンと同じ能力をもつ「ユ・ジヌ」。特徴的な声ですね。
あらすじ(ネタバレあり)
製薬会社で隠密に生体実験にさらされていた魚男を、青年記者が暴露し、
魚男への同情、製薬会社への非難が起こります。
同時に、
若者が就職難ゆえに危険なアルバイトに手を出すという、
ワーキングプアの問題もクローズアップされます。
魚男は一躍、時代のヒーローとなりました。
ところが製薬会社が作ろうとしていた新薬が、
体内でタンパク質を無限に供給し、食糧難を解決する薬
韓国が初めてノーベル賞をとれるかもしれない研究
だとわかり、大手資本が出資することになると、
魚男は一転、反社会的存在になりました。
状況が反転したことで何が起こるかというと、
魚男の幼少時代を「まったく目立たないからなんの印象もない」と
証言していた「級友」が、
「当時から変わり者で印象に残っている」と
証言を変えたり。
製薬会社を相手に賠償請求の裁判を受けてくれた人権弁護士が、
「最後まで戦う」と言っていたのに、
「勝てる見込みがないからせめて和解金を」と
主張を変えたり。
青年記者は「真実を報道し、弱者の側に立つ」
という夢をもって記者を志したので、
こうした現実と、それを扱う報道機関に疑問を感じるけれど、
流されてしまいます。
魚男は、自分のために苦しむ人たちを見ていられず、
製薬会社に協力を申し入れ、人体実験されるうちに死んでしまいます。
しかし状況はさらに反転。
食糧難を解決するはずの新薬は、金持ちしか手に入らない価格になり、
魚男をもとに戻す方法が、実はあったことが暴露され・・・。
ラストは、
魚男はもとに戻ることを拒否して、自分は死んだことにして、
海でくらすこと(魚になること)を選択。
青年記者は、報道機関をやめてフリーになって夢を追う。
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現実社会に一矢報いたい
映画のホーム―ページにある監督のことばに、
コメディのような現代の韓国社会と、その現実から逃避している
無力感に一矢報いたい、
という一節がありました。
資本と権力の言いなりになっているメディア、
ノーベル賞のためなら不正義も黙認する社会、
世の中に毒づいているけれど、結局公務員試験を受ける女、
そして、魚男をずっと取材していた青年記者でさえ、
葬式の写真で初めて素顔を知ったと告白しているように、
意志をもつ個人として、彼を見ていなかった。
なるほど現代社会のアルアルが描かれています。
コメディタッチですが、やはりうんざりしますね、
「私は魚になりたい」
です。
就職難の現実の象徴として、
青年記者には「正社員にしてやるから」と上司に無理を言われ、
魚男の父親は二言目には「公務員になれ」といい、
若者の息苦しさが伝わってきます。
『青い海の伝説』でも「公務員」はキーワードでした。
現実社会の不正や不平等を告発したり、
詐欺師や超能力者が制裁加えたり、
という作品が多くありますが、映画の中で爽快感や満足を得ても
現実は変わらないじゃないか、と思うこともありました。
でも、現実社会のおかしなことを可視可させて、
その也の果てをシュミレーションして、
悩んで出した答えの一例を示す、
というこの作品は、これまでの「代理満足」とは違うと感じました。
ひいき目かもしれませんが、さすがイ・チャンドン作品。
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コメント
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2017年 2月 27日
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