『光の国から僕らのために』~私が授業でウルトラマンを使う理由~

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時々、韓国語の授業で、『帰ってきたウルトラマン』第33話を教室で見ることがあります。



公演概要

2016年2月10日(水)~21日(日)
紀伊國屋サザンシアター

脚本:畑澤聖悟
演出:丹野郁弓
金城哲夫:齊藤尊史
上原正三:みやざこ夏穂
円谷一:千葉茂則

公演パンフレット
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あらすじ

沖縄の本土復帰は1972年。ウルトラマン放送開始は1966年。ウルトラマン初期の脚本家二人は、沖縄出身で、つまり東京の円谷プロにくるためにはパスポートが必要な時代だった。

沖縄出身の金城哲夫は、縁あって円谷英二率いる円谷プロダクションに入社する。時代はテレビ創成期、金城は20代の若さで「ウルトラQ」の脚本家に抜擢される。同郷の上原正三を引き入れ、「ウルトラマン」「ウルトラセブン」などを世に送り出す。
金城は戦争体験を語らず、底抜けに明るいが、上原は脚本にも戦争の影をしのばせ、東京生活でも「琉球人」への差別を経験する。

ウルトラマン人気は高まっても、会社は借金を抱え、1969年、金城は突然沖縄へ帰る。1975年の沖縄海洋博で、金城は開閉会式の演出を担当するが、沖縄と本土との軋轢に苦しみ、アルコールに溺れるようになる・・・。

公演パンフレット
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ざっくり感想

客席は「ザ・おじさん」で埋まっていました。
あらすじでもわかるように、「ウルトラマン制作秘話」ではなく、沖縄と日本のゆがんだ関係が中心にあります。

沖縄の米軍基地 ⇒ 辺野古
海洋博で地元がこうむった被害 ⇒ オリンピック
本土で下宿を断られるなどの差別 ⇒ ヘイトスピーチ

などなど、「今」に繋がるテーマでした。
解決が難しい重たい現実を前に、
「俺は沖縄と日本の懸け橋になるんだー!」と叫ぶ金城・・・

純粋すぎてこの世の中に適応できなかったんだなあ、
だから、ウルトラマンを生み出せたんだなあ、
というのが最初の感想でした。

ちょっと残念

ただ・・・、どれも少し検索すれば出てくる「事実」です。
たとえば、ウィキペディアの「沖縄海洋博」には、

「海洋博に合わせて行なわれた開発は、赤土の海への流出を招き、サンゴ礁に被害を与えるという海洋汚染も引き起こした。」

沖縄の漁師たちのセリフの内容、そのままじゃないか。
金城の業績にしろ、沖縄と本土の関係にしろ、金城と上原とのやり取りにしろ、
「事実」をつなぎ合わせただけという印象です。

せっかく「お芝居」なのだから、「きっとこうだったんだろう」という「創作」があってもよかったと思います。
もちろん、作り手の思い入れが感じられるような。

もっとも、パンフレットに上原正三さんが寄稿されているし、金城本人の写真も使われているし、
関係者がまだあちこちで目を光らせているわけですから、大胆な冒険はできないでしょうね。

上原正三さんは、こんな本も出しています。

韓国との関係

劇中、上原のセリフに、
「東京で下宿を探すと、朝鮮人と琉球人はお断りといわれる」
というものがあります。

圧倒的多数のヤマトンチューの前に、
ウチナンチューと朝鮮人は、ともにマイノリティーとして差別されていた。

差別されるマイノリティーの視点をもっているから、同じマイノリティーの
朝鮮人やアイヌ民族への共感があったと思います。

「ノンマルトの使者」

超有名な、ウルトラセブン第42話「ノンマルトの使者」は金城の脚本です。
海底開発が進む海の下に、ノンマルトが住んでいた。
地球人より先に地球に住んでいるというノンマルト。
ノンマルトにしてみれば、今の人類が侵略者になるわけです。
しかし、ウルトラ警備隊はノンマルトの海底都市を爆破してしまう。

劇中、金城のファンだという青年が、
「ノンマルトの使者は、日米安保ですね、ノンマルトは沖縄だ」
といい、金城がきょとんとする場面があります。

「金城には政治的意図はなく、作品に沖縄を投影することもなかった」
といわれます。でも、だからこそ、意図しないからこそ、

「ノンマルトと同じ宇宙人の立場」「地球を守る使命」という葛藤、
強者が弱者を支配する理不尽さへの反感、
というものが、「ダダ漏れ」してしまっているのではないかと思います。

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「怪獣使いと少年」

これも超有名な、帰ってきたウルトラマン第33話「怪獣使いと少年」は上原の作品です。
工場地帯の廃屋に「川辺に穴を掘る少年」がいる。
近所の不良少年たちがちょっかいだして、超能力で撃退されたことから、
「少年は宇宙人だ」という噂が立ち、町ぐるみでいじめがはじまる。
実は、少年は「金山」と名乗る老人をかくまっており、その老人はメイツ星人だった。
宇宙人への不安が高まり、町民たちが暴徒と化し、老人が殺された・・・。

工場地帯は在日朝鮮人の集住地域である川崎をほうふつさせ、
いじめにあう少年は朝鮮人っぽい顔立ちで、
メイツ星人が名乗る「金山」は、在日の人たちがよく使う通称名。
暴徒化する町民たちは、関東大震災時の朝鮮人虐殺か。

ここまでそろうと、「在日朝鮮人をモチーフとした作品」といわれるのも無理はありません。
芝居でこの作品は出てきませんでしたが、
上原が差別体験や、戦争体験を語る姿をみると、
「怪獣使いと少年」を書かざるを得なかったんだなあと思いました。

「怪獣使いと少年」という本もあります。

授業で「帰ってきたウルトラマン」

時々、「怪獣使いと少年」を授業で見せることがあります。
韓国語を学びながら、日韓関係にも目を向けてほしいと思うからです。

韓流ブーム最盛期には、「こんな時代もあったのだ」と、
ヘイトスピーチが問題の時は「昔は社会全体がヘイトだったのだ」
ということを伝えたくて、視聴します。

学生さんたちの感想は、

少年に対するいじめの描写がすさまじい。
ウルトラマンはこんなに暗い話だったとは意外。
子供番組なのに難しすぎる。
フィクションとはいえ、衝撃的。

など、少し「受け止めきれない」という印象です。
それでも「ウルトラマンの世界は深い」ということは伝わるようです。

ドラマは今までにも何度か作られていますね。

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