映画『朴烈(パクヨル) 植民地からのアナキスト』国も民族も超えるということ
アナキスト朴烈にかけて、アナーキーな貝殻(穴空きな貝殻)を写真を選んでみました。
キャスト・あらすじ
関東大震災の朝鮮人虐殺を扱っているので、日本での上映はないかなと諦めていましたが、大阪アジアン映画祭(2018年3月9日)で上映されるそうです。うらやましい。
監督:イ・ジュニク
(『王の運命(さだめ)歴史を変えた八日間』『東柱』などの監督さん)
朴烈:イ・ジェフン
金子文子:チェ・ヒソ
水野錬太郎:キム・ミンウ
(在日3世の俳優さんで、『密偵』『東柱』『軍艦島』などの日本人役で出ています)
あらすじ
1923年の関東大震災で「朝鮮人が井戸に毒を投げた」というデマが流れ、多くの朝鮮人が自警団、警察、軍によって虐殺された。朴烈は「不逞朝鮮人」の象徴して逮捕され、天皇暗殺の濡れ衣で裁判を受けることに。しかし朴烈は裁判を、植民地支配や天皇制批判を広く訴える場として利用する。
予告編
朝鮮人虐殺
今回の「史実」は関東大震災の朝鮮人虐殺ですが、「そんな事実はなかった」と主張する人たちがいるので、なかなか扱いにくいテーマです。虐殺にかかわった人たちは都合の悪い記録は残さないようにしますから、公的な記録が残らないのでしょう。
公的な記録のかわりに、関係者が生きている間に行われた聞き書きや、文筆家たちが発表している大震災についての文章などから、虐殺の実態をまとめた労作もいくつか出版されています。
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それでも、昨年(2017年)、小池都知事が関東大震災の朝鮮人虐殺犠牲者への追悼文を拒否し、ニュースになりました。六千人という数字の根拠がない等、理由を挙げてたように、「そんな事実はなかった」という主張は根強いです。
朴烈と金子文子
イ・ジュニク監督はすごいなあ、と思うのは、こういう敏感な事件をていねいにあつかいつつ、歴史的背景や思想的背景を抜きに見ても、この二人の愛情物語だけでも、十分に見ごたえあるように作っているところです。
冒頭、文子が朴烈に「同居しましょう」と誘うのがあまりに唐突で、「はぁ?」となるのですが、映画の進行とともに、文子の凄惨な生い立ちが明かされ、冒頭の「はぁ?」が深い感動に変わっていきます。
この金子文子の獄中手記「何が私をこうさせたか」は私も昔昔に読んだことがありますが、なんと去年の年末に文庫になって再登場していたんですね。知りませんでした。
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文子役のチェ・ヒソさんは、大鐘賞や今年の映画賞などを受賞するほどの熱演で、イ・ジェフンさんも豪胆であるほどに、文子への眼差しが感動的でした。
国も民族も超えて
植民地時代を背景にした作品は、日本人が見ると居心地が悪くて遠ざけてしまいますが、この作品は、韓国VS日本にはなっていません。
どの時代にも、いい人もいれば悪い人もいるのは勿論のこと、最初は悪い人のようにみえても、人は変わるものです。
『朴烈』では、朴烈と金子文子の尋問を担当した判事や刑務所の監視官が、特に文子が親に捨てられ祖母に虐待されてきた生い立ちを知ってから、「理解」を示すようになります。
無戸籍として差別に苦しんできた文子は、戸籍を突き詰めて考えると、戸籍の頂点にいるのが天皇で、その戸籍制度=天皇制からはみ出たための差別を受けているという考えに至ります。だから差別を生んだ根源に天皇制があると主張するのは、とても筋が通っているわけです。
無戸籍の文子と朝鮮人の朴烈は「はみ出た者」同士。そして二人とも、詩を書いたり、手紙を書いたり、自叙伝を書いたりする表現者でもありました。
でも、当時は自由にモノが言える時代ではなかった。
だから、尋問や裁判を通して、彼らは自分たちの言葉を世の中に伝えようとしたのです。
ちゃんとした「言葉」は、日本人・朝鮮人という国や民族を超えて、ちゃんと届くんだ、というところに、感動しました。
賛否というか好き嫌いというか
イ・ジュニク監督は、かなり史実を調べて映画を作ったという自信から、映画の冒頭に「この映画は史実をもとにした実話です」と書いてあります。
実話・・・は、言いすぎでしょうね。
金子文子に詳しい人は「史実にもっと忠実であるべき」と批判していました。映画という制限の中では、はしょった部分や想像で埋めざるを得ない部分もあるでしょうから、「実話」といわれると拒否感があります。
実際、予告編にもちょっと出てきますが、「朝鮮人、出ていけ」怒鳴る日本人が日本刀を振り回すシーンがあります。1923年(大正12年)はとっくに廃刀令、帯刀禁止されているはず。
私は、歴史素材にエンターテイメント要素を入れるのは、客層を広げるうえで良いと思います。ただ、「史実に限りなく近いフィクション」という断りは必要かと。
実際、この映画もとても泣けてよい作品なので、
日本でも共感してもらえるんじゃないかと、ちょっと期待しています。
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