映画『シークレットサンシャイン』と原作小説を比べて見ると

fresh-979068_640

引っ越してから、電車での移動時間が結構長くて、読書量が増えました。最近、映画化された小説を好んで読んでいるのですが、先日ずーっと気になっていた『シークレットサンシャイン』の原作小説を手に入れました。

スポンサーリンク

映画『シークレットサンシャイン』

2
韓国で2007年に公開された、イ・チャンドン監督の作品です。
しかも、チョン・ドヨンとソン・ガンホが主演、そしてこの作品でチョン・ドヨンはカンヌの主演女優賞を受賞しました。

10年以上前の映画なので、GYAO!や、DTVなどの動画サイトで、ちょいちょい配信されています。超おすすめ作品ですが、
内容は、ものすごく重いです。

夫を失い、シングルマザーとなったチョン・ドヨンは、一人息子がすべて。しかし、新しい生活を始めるために引っ越した先で、息子が誘拐され殺されてしまいます。一時、キリスト教会に救われ、信仰が拠りどころとなります。
信仰の証しとして、息子を殺した犯人を「赦す」と決心し、刑務所に面会に行ったところ、犯人は「刑務所で神に出会い、神に赦しを請うた」と清々しい表情を見せる。チョン・ドヨンは「自分が赦す前に、神に赦されるのか」と衝撃を受ける…。

クリスチャン人口が多い韓国で、宗教・信仰をテーマに問題提起していることにとても驚きました。
見終わってすぐは、ただただ衝撃を受け、しばらくして「なんとも救いがない」と暗い気持ちになり、さらにしばらくして「いや、結構、希望のあるエンディングだったのか」と思い直しました。

イ・チャンドン監督の作品はどれも印象深くて名作ばかりですが、
『シークレットサンシャイン』は、「解説が欲しい!」と強く思いました。
そんなわけで、原作があるなら読みたい、と思っていました。

小説『密陽』(原題:虫けらの話)

IMG_0480
著者は、イ・チョンジュンという方。

とても薄い本です。99ページ!
しかも、文字が少ない!
IMG_0481
こんな感じです。

そして、会話も少ない!
つまり、俗語がなくて、抽象的な心象風景の描写もないので、
きわめて読みやすいです。

スポンサーリンク

映画と小説の比較

一般的に、小説が原作の映画は、原作を先に読んで映画を見ると失望します。
圧倒的に情報量が多い小説を、2時間の映像にまとめるのが、そもそも無理があるわけですから。

しかし、この『密陽』は、99ページ。
情報量は、圧倒的に映画の方が多いです。

小説では、夫が健在です。夫の視線から妻が描かれています。
だから、映画でソン・ガンホが演じた「近所のおせっかいな男性」はいません。

息子が誘拐されて殺されていまい、それをきっかけにキリスト教会に通う。
「自分より先に神が犯人を赦した」ということに衝撃を受ける。

ここまでは同じですが、その後、
映画では、チョン・ドヨンはフラフラになりながら生きていきますが、
小説は、このラストが決定的に異なります。

小説の作家による前書きによると、
実際にあった事件をモチーフにしていて、その事件の犯人が死刑執行前に残した言葉に疑問をもったことから書いた作品だそうです。
死刑囚が最後に残した言葉とは、

나는 하나님의 품에 안겨 평화로운 마음으로 떠나가며, 그 자비가 희생자와 가족에게도 베풀어지기를 빌겠다
私は神の胸に抱かれて平和な心で旅立つ、その慈悲が犠牲者と家族にも与えられますように

作者は、この言葉を聞いたとき事件そのものより大きな衝撃を受けたといいます。
確かに、加害者が言う言葉ではない、と感じます。

小説の中心は、作者が感じた違和感です。
死刑囚の言葉は、本当に犠牲者のためのものだったのか?
神は本当に彼を赦したのか?そもそも神が赦してもいいのか?
全能の神の前に、我々人間の尊厳と権利とは、何なのか?
神の名で、尊厳を踏みにじられた人間は、虫けらのように無力だ。

だから、小説の原題が『虫けらの話 벌레 이야기』なんですね。

原作小説の「問いかけ」に、イ・チャンドン監督が映画で応答しています。
タイトル『虫けらの話』から『密陽(シークレットサンシャイン)』への変更、
小説にはいないソン・ガンホの存在が、その答えになっていると思います。

神の前で虫けらのような人間ではあるけれど、
ソン・ガンホは、チョン・ドヨンを「お節介」で救います。

そして1度目に映画を見たときには気が付かなかったけれど、
2度目に見たときには、「密やかな陽の光」がちゃんと描かれていました。
死刑囚が語ったエセな神様じゃなくて、
本当の信仰、本当の神様は、もっと密やかな陽の光のようなものじゃないか…。

原作小説だけ読んでいたら、絶望的な問いかけに私も絶望してしまったでしょうけれど、映画を事前に見ていたので、絶望しないで済みました。
改めて、イ・チャンドン監督、すごい人です。

スポンサーリンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

2018年10月
« 9月    
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  
ページ上部へ戻る