映画『大統領暗殺裁判 16日間の真実』感想その②パク・テジュへの違和感

イ・ソンギュンさんの遺作となった『大統領暗殺裁判』。そのイ・ソンギュンさんが演じたのは、精錬潔癖な軍人役でした。でもまったく感情移入できませんでした。
『大統領暗殺裁判 16日間の真実』の概略と見どころについては↓
イ・ソンギュンさんの演技
『大統領暗殺裁判』は、
暗殺事件の実行犯の1人であるパク・テジュと弁護士チョン・インフの
物語です。
チョン・インフを演じたのはチョ・ジョンソクでした。
「賢い医師生活」をはじめ、コミカルな演技が得意な人ですので、
重苦しい内容の映画のなかで、息抜き的な「お笑い担当」なポジションでした。
パク・テジュを助けようと、文字通り奔走する「動」のチョ・ジョンソクに対して、
必要最低限しかしゃべらないイ・ソンギュンは「静」の演技でした。
チョ・ジョンソクの「動」をひたすら受け止めるイ・ソンギュン。
これはこれで、名演技だったと思います。
軍人の命令に絶対服従
大統領暗殺の主犯格は、
キム・ヨンイル中央情報部長です。
(実存人物:キム・ジェギュ)
チョン・インフ弁護士は、パク・テジュに
大統領を暗殺するとは知らずにキム・ヨンイルについて行った
と答えるように指示しますが、パク・テジュは
知っていたから、嘘はつけない
とはねのけます。
曲がったことは大嫌いという軍人気質な面を見せます。
そして、
군인은 명령에 복종해야 합니다.
軍人は命令に服従しなければなりません。
という言葉を繰り返します。
上官がお前の親しい仲間を殺せと命令したら殺すのか
という質問にも、
命令に従うと答えます。
もう一度当時に戻れたら、大統領暗殺の命令に従うか
という最後の質問にも
私は軍人だから命令に従う
と答えます。
パク・テジュは、
曲がったことが嫌いで、
不正な蓄財もせずに、
精錬潔癖な人物として描かれています。
映画では、このパク・テジュの態度を、
さすが立派な軍人だ
と考えているのか??という疑問がひっかかりました。
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アイヒマンの「凡庸な悪」
第二次世界大戦で、ヒットラーの親衛隊中佐だったアイヒマンは、
戦後、戦争犯罪の責任を問う裁判にかけられました。
その裁判でアイヒマンは、自身の行ったユダヤ人迫害について
命令に従っただけ
と答えて、無罪を主張しました。
ドイツ系アメリカ人の政治哲学者ハンナ・アーレントは、
この裁判を傍聴して、
思考を停止した個人が命令に盲従する危険について
凡庸な悪
と表現しました。
戦場で、敵を殺したり捕虜を虐待したりするのは、
末端の兵士たちです。
仮に上官に「これは間違っている」と訴えたところで、
上官も命令に従っているだけ。
最初に命令を下すトップから、末端の兵士まで命令が伝わるまで
何人もの「上官」が間に入っている。
つまり、末端の兵士たちは、
構造的に命令に逆らえないポジションです。
でも
アイヒマンは親衛隊中佐
パク・テジュも大佐
高い地位にいた人物です。
最初に命令を下すトップの近くにいる。
つまり、トップに意見をいえるポジションだったはず。
だから、パク・テジュのこのセリフ
군인은 명령에 복종해야 합니다.
軍人は命令に服従しなければなりません。
全然立派には聞こえないのです。
事実と異なる部分
大統領暗殺の後、車で移動する途中で、キム・ヨンイルが
中央情報本部か、陸軍参謀本部かどちらにいくべきか
と訊ね、パク・テジュが
陸軍参謀本部へ行くべきだ
と答えた場面が出てきます。
これが裁判の行方に大きな影響を与えます。
キム・ヨンイルの拠点、中央情報本部に行ったら、
味方を増やして、権力掌握のための内乱を企てたことになりますが、
陸軍本部は敵陣のようなものですから内乱といえなくなるからです。
弁護人のチョン・インフは、
パク・テジュが陸軍へ行こうと提案したのは、
自首を促したようなものだ
と主張して、パク・テジュを助けようとします。
しかし!
実際には、同乗していた陸軍参謀総長が陸軍へ行こうと提案したそうです。
映画では、パク・テジュが陸軍を提案したと証言してくれと頼まれていた人です。
映画は事実をかなり脚色していたんですね。
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最後まで読んでいただきありがとうございます。
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