映画『天命の城(原題:南漢山城)』時代劇で敗北を描いたのは珍しい

学期中は映画もドラマもなかなか見られません。でも『天命の城』はどうしても見たかったので無理して見に行ったら、風邪を引きました。それでも見てよかった。いろいろ考えさせられる作品です。
『天命の城』
2017年公開
監督:ファン・ドンヒョク
(「怪しい彼女」「トガニ」などの監督さん)
ミョンギル:イ・ビョンホン
サンホン:キム・ユンソク
王のインジョ:パク・ヘイル
鍛冶屋:コ・ス
あらすじ
1636年、清が朝鮮を攻撃した「丙子の役」。王と朝廷は南漢山城に避難する。
ミョンギルは、清との交渉・和睦の道を主張、サンホンは和睦=従属するなら潔く戦って散りたいと主張。二人の間で王インジョは揺れるが・・・。
史実ですから、結果はネタバレしているわけですが、
結局、清に従属する道を選びます。朝鮮の王が清の皇帝に、額を地面にこすりつけて服従を表明します。
韓国映画は、検察にしろ詐欺にしろ不正腐敗を成敗したり、息苦しい現実に対して「代理満足」を提供してくれる、爽快な結末がお約束でした。だから、結末が「敗北」というのは、かなり珍しい。
でも、興行的にもそこそこお客さんもはいり、青龍映画賞では脚本賞にも輝いたし、敗北の歴史を納得させる内容の濃い作品だということです。
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感想
140分という長い映画です。
戦闘シーンは迫力ありますが、基本、セリフ中心。
私はセリフ劇が好きなので、双方の主張それぞれに頷きながら、
もしこの時代に生きていたら、私はミョンギル派か?サンホン派か?
と考えて、うぅぅぅ悩む~と苦しみながら見ていました。
しかし、視界に入る範囲にいたおじさんは、上映中、何度も携帯電話を出して液晶を光らせていました。相性の合わない人に140分は、苦痛だったようです。
私は、理性はミョンギルの主張「命あっての物種、恥辱なんて耐えられる」なのですが、感情面ではサンホンの「恥の中で生きてもそれは生ではない、潔く散ってこそ花」に共感してしまいます。
絶対多数である庶民たちは、支配者が貴族であれ、明であれ、清であれ、
日々の仕事が回り、日々の食べ物さえあれば、
家族と安全に暮らせさえすれば、いい。
庶民たちには、権力者たちのプライドやらメンツやら、関係ないのです。
それを、ひげ面のイケメン、コ・スが訥々と語るのですから、説得力あります。
ミョンギルの「命あっての物種」の命は、
まさに庶民たちの生活で、
その「命」を守るためなら自分の命は惜しくないという・・・。
それをイ・ビョンホンが、切々と語るのですから、そりゃもう、切ないです。
ストーリーも重厚ですが、役者さんたちも、見ごたえ十分です。
キム・ユンソクは、相変わらず頼もしい顔と声ですし、
パク・ヘイルは、相変わらず(?)家臣たちの主張に振り回され「決められない」王という、得体のしれない、つかみどころのない役がぴったり。
イ・ビョンホン演じるミョンギル
キム・ユンソク演じるサンホン
パク・ヘイル演じる王インジョ
原作小説の作者も満足
キム・フンの「南漢山城」が原作です。
2007年の小説で、同年に大山文学賞を受賞し、高校の教科書にも掲載されたという名作です。
そういう名作を映画化するというのはプレッシャーでしょうけれど、
原作者のキム・フンさんは試写会で、
私が小説で表現したかった意図が映像でちゃんと表現されている。
作家である私が、作品に忍ばせたメッセージを監督が言語化してくれた。
と絶賛していました。
キム・フンさんは、もともと記者で、社会問題にもきっちり発言する人なだけに、
歴史小説であっても、現代社会につながるというか、
大国への依存という、今に通じる問題意識というものがベースに感じられます。
トリビアねた
結局、清に従属することになり、これに耐えがたいと、サンホンは自決しました。
が、
史実では、自決を試みたけれど阻止され、サンホンは80過ぎまで生きたそうです。
王インジョの息子。
「幼い息子」みたいに表現されていました。
が、
当時の実際の世子(セジャ)は25歳の青年だったそうです。
インジョは1595年生まれ、丙子の役(1636年)当時41歳。
つまり、16歳の時の子ども!?
インジョの隣に25歳の青年がならんだら、親子には見えないでしょうね。
あと、トリビアではありませんが、
この映画の見どころの一つ、音楽担当が坂本龍一。
映画見終わって、「あ、音楽」と思い出そうとしましたが、
まったく、記憶にありません・・・。
よく言えば、映像の邪魔をせず、作品に溶け込んでいた、
のかもしれません。
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コメント
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南漢山城はハイキングコースになっているそうで、手軽に行けそうですが、なにせ韓国に行ってもわずかな言葉しか話せない、聞き取れない私には、乗換とかちょっとハードル高いかもと、ツアーにしたんですけどね・・・(涙)
わたしも思いを温めて、そのうちにきっと実現しますね(ファイテン)
「名家の娘ソヒ」つながりで、キム・ヒョンジュさん目当てに見始めた「花たちの戦い」でしたが、女だけでなく男性たちの壮絶な権力争い、まさに宮廷残酷史にすっかりはまって、延々と50話頑張りました。
夏休みにぜひぜひご覧になって、感想をお聞かせください。
韓国歴史ドラマの面白いところは、丁々発止の駆け引き&これでもかと繰り出される知恵(悪だくみ)の数々。諦めずあの手この手に、そう来たか!そこまでやるの!と苦笑いしてしまいます。しかもほぼ実話らしいのが凄いですよね。「大奥」などはほんの序の口に見えてしまいます。
「天命の城」でミョンギョルの横で不安そうにしていた領議政が、キム・リュでょうか?「華政」も関連していそうだし「光海君」あたりも探さなくては・・・と、はまりそうです(笑)
なんだか現在進行形の政治と似通ったところもあるなあ なんて。映画は世界が広がって面白いですね~
ponさま
私は韓国ドラマを見始めてから、それほど年月がたっていないので、
歴史ドラマは、とにかく長くてなかなか見ることができないでいます。
それでも、「善徳女王」「六龍が飛ぶ」「根の深い木」の3部作は、本当に感銘をうけました。
おっしゃるように駆け引き、特に議論の見せ場がすごいですね。
民衆を信じる・信じない、王権による政治の是非、文字による教育の是非、
どちらの言い分も「そうかも」と思いながら議論に引き込まれます。
ドラマや映画は、座ってみているだけですが、
回数が長かったり、衝撃的な場面が続いたりすると、
結構、体力が必要になるんですよね。
広がる世界を楽しむためにも、健康と体力!と思っています。
ドラマ「花たちの戦い」がとても面白くて、一体どういう史実があったのか、その前段階の「天命の城」を楽しみにしていました。
「花たちの戦い」で仁祖が、清に頭を下げて屈辱だった、トラウマだ!と事あるごとにぐちぐちと文句を言い切れる場面がありましたが、「天命の城」をみてパク・ヘイルさん演ずる優柔不断だめだめ王じゃあ、仕方ないよね・・と納得でした。朝鮮王朝史上、なるべきでなかった王の1番だそうですね。
ミョンギョルとサンホンが、ドラマではどう描かれていたのか、そのうちに見返そうと思います。
しかし、和睦か 決戦か 朝廷会議の緊張感溢れる席は、固唾をのんで見守ってしまいました。低い声でしかし説得力のある声で持論を展開するビョンホン&ユンソク両俳優、素晴らしいでした。
韓国に遊びに行くたびに、ここは大陸の先に突き出た半島で古い昔から地続きの隣国との関係やら日本やらに翻弄され続け、いまだにその関係は続いているのだなあ と感じます。島国にいると味わえない感覚ですね。
南漢城は世界遺産に登録されたので、近春ガイドツアーを申し込んだのですが、生憎日本人客が他にいずキャンセルでした。そのうち行きたいものです。
ponさま
ご覧になったのですね、「天命の城」。
そして、その後を扱ったドラマがあるんですね!
「花たちの戦い」、副題の「宮廷残酷史」がすごいですね・・・。
調べたら、副題の方が韓国での原題だったんですね。
すさまじそうです・・・。
夏休みに見てみたいです。
南漢山城は、私が初めて韓国語を学んだ時のテキストに、
「休みに南漢山城に行ってきました」
という会話文があったので、一度行ってみようと思いながら、ずっと忘れていました。
この映画で、モチベーションが高まったので、
30数年前の思いを遂げたいです。
ソウルから1時間ちょっとで行ける距離だそうですが、
やはり行くとなったら、丸一日コースでしょうね。
映画みると、楽しみがいろいろ増えますね~。