イ・ジョンソク出演最新映画『VIP』が女性蔑視と非難される理由

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イ・ジョンソクが悪役で出演ということで、日本上陸を楽しみにしていた映画ですが、ネガティブな評価がちらほら見えてきました。

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映画の概要

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写真:네이버 영화より

韓国国家情報院とCIAの企画で北朝鮮から来たVIPが、連続殺人事件の容疑者として名前があがっている中、これを隠蔽しようとする者、必ず捕ろうとする者、復讐しようとする者、それぞれ異なる目的を持つ4人の男の物語を描く犯罪映画。

イ・ジョンソクは、北朝鮮のVIPで連続殺人犯役、
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それ以外にも
CIAと韓国の情報院を行き来するチャン・ドンゴン
イ・ジョンソクを追いかける警察官にキム・ミョンミン
という豪華なキャストも話題です。

パク・フンジョン監督といえば、『美しき世界』とか『悪魔を見た」などが代表作の、男くさーいイメージの監督さん。
追いつ追われつ、騙し騙され、という好きなタイプの映画なので、楽しみだったのですが。

キーワードは女嫌(여혐)

映画の冒頭で、イ・ジョンソク演じる北朝鮮のVIPが引き起こす殺人シーンで、
少女を拉致し、裸体に暴力を加え、殺害する過程を、
かなり長い時間、リアルに表現している部分が、問題になっています。

批判の内容は、
女性に対する殺人と強姦がポルノとして消費されている
映画に出演する女性のほとんどが死体役
不快感と嫌悪感しかない、精神的拷問だ

というものです。
여혐여성혐오/女性嫌悪/ミソジニー)の映画だという批判です。

一方で、主に男性観客から、映画を擁護する声もあります。
表現の自由があるはず
北朝鮮VIPに対する憎悪を掻き立てるために必要な場面
そういう映画なのだから仕方がない

批判の背景

映画「VIP」だけが、女性を残酷に消費しているわけではなく、
そのほかにも、いや「VIP」以上に、女性に性暴力を加える映画は多くあります。
名作といわれるポン・ジュノ監督の「殺人の追憶」もそうでした。

にも拘わらず、この映画が特に批判の対象になったのはなぜなのでしょうか。

多くの人が挙げているのが、2016年に起きた江南駅殺人事件です。
ある男性が、江南駅の男女共用トイレで女性が入ってくるのを待ち、
女性を狙って惨殺した事件です。
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写真:노컷뉴스より(被害者を追悼する付箋がはられた江南駅)

殺人の理由が「女性だから」ということで大問題になりました。

拷問で死んでいく映画の場面を見た女性たちが、
被害者に対し心理的に同化し、現実的な恐怖を感じるわけです。

「女性だから殺された」という事件が起きた。
女性は、性的暴力や殺害にいつ遭うかわからない恐怖を感じる。
男性は、その恐怖を知る必要もない立場にいる。

映画「VIP」に対する両極端な評価は、
女性と男性の、性犯罪に対するこのような意識の違いを、浮きあがらせる結果になりました。

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映画そのものへの評価

映画「VIP」は、北朝鮮と韓国の間にアメリカCIAまでからんだ犯罪アクションで、
出演俳優陣をみても、かなり魅力的な映画だといえそうです。
それを、冒頭に性暴力シーンがあるからといって、映画全体の評価を下げるのはいかがなものか。
という意見も見られました。

これに対して、ある映画評論家は、
問題の場面が、ストーリー展開上、必ず必要だという説得力があれば、これほど問題にならなかっただろう。
恐怖や嫌悪感を引き出すために、監督は露骨な再現場面を使ったわけだが、
再現ではない表現方法もいくらでもある。それこそ演出家の腕の見せ所だろう。
そのような演出技術を用いている映画は、たくさんある。

と解説しています。なるほど、イ・ジョンソクを起用しているのは、女性客を動員したいという意図があってのことでしょうし、そうなれば、女性客を意識した演出、というのがあってもいいのではないか、と思います。

韓国映画業界の現住所

映画『VIP』は、女性蔑視批判により、興行的にも致命的打撃を受けてしまいましたが、
興行的な成功を収めている『青年警察』にも、同様の批判が起きています。

パク・ソジュンとカン・ハヌルという熱い俳優によるコメディ映画ですが、
女性の体を対象にした犯罪を軽く扱っている、という批判があるそうです。

映画製作において、女性は男性キャラクターを生かすための道具にすぎず、
興行的にも、女性は観客数を増やすためのただの数字にすぎない。

観客は、そう感じたわけです。
では、作り手は?
シナリオ段階、撮影、編集、広報… この映画に関わった全ての人の中に、
「この映画を女性(=妻、恋人、娘)が見たらどう感じるか」
という視点を持つ人がいなかったのでしょうか。

評論家のコメントには、
これが韓国映画界の現状。
女性蔑視だと声が上がっただけでも前進
という涙交じりのものもありました。

『VIP』出演キム・ミョンミンのコメント

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キム・ミョンミンは、映画関連ラウンドインタビューで、次のように発言したと注目されています。

내가 촬영한 영화지만, 나 역시 (영화가) 많이 불편하다. 남자 배우인, 남자 관객인 내가 보기에도 많이 불편하다.
이 정도는 박훈정 감독의 스타일인 것 같다. 박훈정 감독은 남의 시선에 신경을 쓰지 않으려고 한다. 너무 잔인한 수위 때문에 작품적으로 흥행은 안 될 수 있지만, 박훈정 감독이 행복하면 된 것이다.
私が撮影した映画ではないが、私自身映画に気まずさを感じる。男性俳優であり、男性観客である私が見ても、気まずい。
でも、このくらいは、パク・フンジョン監督のスタイルなのだろう。監督は他人の視線を気にしないようにしている。残忍さのために作品的に興行が失敗しても、監督が幸せならそれでいい。

当のパク・フンジョン監督のコメント。
폭력은 폭력으로 느껴져야 한다고 생각한다. 긴장을 더하려면 그런 장면이 연출적으로 필요하다고 생각했다.그렇기에 표현의 수위와 불쾌하다는 반응들에 대해선 당연히 받아들여야 한다고 생각한다. 여성 캐릭터에 대한 묘사는 앞으로도 계속 공부해야 할 부분인 것 같다.
暴力は暴力として感じられるべきだと思う。緊張感を高めるためにあの場面が演出的に必要だと思った。そのせいで不快に感じたという反応については、当然、受け入れるべきです。女性キャラクターに対する描写は、今後とも学んでいくべき課題だと思う。

ーーーーーーーーーーーー
私自身は、まだ見ていないので、なんとも言えませんが、
最近、キム・ギドク監督の映画で、女性の俳優がベッドシーンを強要された、
と告発したことを思い出しました。
今回のことも、映画業界自体が男性が力で支配している社会だということの、ひとつの表れなのでしょう。

韓国の映画もドラマも、とても水準が高く高品質だと思います。
ここに、女性たちがもっと輝く作品が増えれば、うれしいことこの上ない、
と、期待します。

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コメント

    • pon
    • 2018年 7月 18日

    私も流血・バイオレンスは苦手ですが、話の中身が中味だけに、引き込まれて耐えました。
    観終わって くたくたでほーっと息をはきました。他の方々もすぐに席を立たずでした。
    スポンサーを付けずに制作したらしいですが、スポンサーがついていたらたぶんここまで出来なかったでしょうね。

    キム・ヘスさんが好きなので、かっこいいという「修羅の華」をみましたが、なんだかなあ・・でした。
    韓国の人は喜怒哀楽がはっきりしているので、そのせいもあるのでしょうか?流血・バイオレンスの激しさは。
    日本じゃもう「極道シリーズ」はやりませんもんね。

    でも、現実では、日本でもどこでも表には現れないけれどもっと残虐なことがたくさん行われているように思います。
    人間て なんでしょうね~

      • sokjon2016
      • 2018年 7月 18日

      ponさま
      「VIP」疲れますよね。
      基本的に、ハッピーになれる映画が好きです。

      キム・ヘスさん、「10人の泥棒たち」で初めて見て、
      格好いいなあ、と思いました。
      「グッバイシングル」の、コメディのキム・ヘスさんもよかったです。
      やっぱり女性が活躍する映画はいいですね。
      「修羅の華」は、韓国での評判も悪かったし、その前にみた「悪女」で、
      人を殺す映画はもういいや、という気分だったので、パスしました。
      「なんだかなあ」だったんですね・・・。

      暴力は人間の本質だ、というような話もあるので、
      流血・バイオレンス映画は、韓国に限らず一定の需要があるのでしょうね。
      話題作だとつい、見に行ってしまいますが、
      体調や精神状態など、万全にしておかないとダメージ負います。
      本当に、人間の本質なんでしょうかね。

    • pon
    • 2018年 7月 17日

    初めまして。いつも映画レビューを楽しみにしています。韓国の現状も教えていただき、映画をみるにあたって
    さらに理解が深まります。今後ともたくさんの解説をよろしくお願いします。
     さて、VIPの裏側に 女性蔑視騒動があったことを知り、そんなこととは知らず驚きました。
    出演者が錚々たるメンバーで、これはぜひにと映画館に走ったのですが。。。
    確かに冒頭から凄惨な場面が延々と続き、ここまでやる必要があるのかと思いましたが、このシーンがあってこそ
    後々の更に異常な狂気が浮き上がったと思います。自国の益ばかりを考えている国同士の綱引きや、大国の暴虐ぶりが現在の国際関係を見るようで強烈でした。
    最近はアメリカ映画を見限り、日本映画もいまいちで、韓国映画を追っかけています。ここまで書いていいの?ここまでやるの?という映画人たちの覚悟がビシビシ伝わってくる作品でした。キム・ミョンミン、チャン・ドンゴンはもちろん、イ・ジョンソクを見直しました。ぜひご覧になっての感想を読みたいものです。
    ところで、他のレビューサイトに、画面のぼかしについて、「ぼかす場所が違うだろう」と揶揄するような書き込みがありましたが、わたしはこの書き込みの方が女性蔑視的で嫌悪感を持ちました。

      • sokjon2016
      • 2018年 7月 17日

      ponさま
      コメントありがとうございます!
      「VIP」ご覧になったのですね。
      私はもともと、「流血・バイオレンス」が苦手なのですが、
      韓国映画は、その手のものでも名作と言われる作品があるので、
      いくつか見るうちに、「流血・バイオレンス」にも少しずつ慣れてきました。

      「VIP」は、韓国での評価がイマイチだったので、見るのをためらいましたが、
      やはりあれだけの俳優がそろっていれば見ないわけにいかず、覚悟して、見に行きました。

      おっしゃるように、冒頭の残虐なシーンは「必要だ」とも思います。
      ストーリーも、南北分断、権力の駆け引きなど、興味深く、
      俳優さんたちも、安定の名演技で、見ごたえはあったのですが、
      ただ、女性男性問わず、血みどろ残虐場面が多すぎて、「うっ」となりました。

      韓国の映画やドラマは、魅力的な男性が多いからとはいえ、
      出演者が男ばかり、という作品が極端に多い気がします。
      男性俳優さん目当てで作品を見に行くことが、私も多いので、
      それだけ需要があるんですよね。

      でも「VIP」は見終わって、あれだけの俳優さんがそろっていたにもかかわらず、
      正直、疲労感が強かったです。
      流血・バイオレンスに免疫があるかどうかで、評価が大きく分かれる作品だと思いました。

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