舞台『ザ・空気』(永井愛脚本)報道現場の現実と予言?

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「嫌韓」という「空気」の影響を少なからず受けているので他人事ではないと、見に行ってきました。

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二兎社公演『ザ・空気』

笑いをちりばめていたといいますが、まったく笑えないホラーでした。
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キャスト
田中哲司: 今森編集長
若村麻由美:来宮キャスター
木場勝己: 大雲アンカーマン
江口のりこ:丹下ディレクター
大窪人衛: 花田編集マン

2017年1月20日~2月12日
池袋 東京芸術劇場

あらすじ

2016年2月、高市総務相が
放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条違反を理由に、電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性がある、
と発言したことがニュースになりました。

報道の自由に対する危機感の叫びのようなお芝居でした。

舞台は、とある放送局。
その日のニュースは、報道の自由をテーマにした特集で、

政府による報道規制の発表
それに対するジャーナリストたちの反対声明
ドイツ人ジャーナリストのインタビュー

という素材があった。

大雲アンカーから、3か所の訂正が求められた。
放送局に、「放送内容が偏向している」
という苦情があったというのだ。
さらに、当日、抗議電話までかかってきた。

今森編集長は悩み、
来宮キャスターは大雲アンカーに異議を唱え、
丹下デレクターはあたふた駆け回り、
花田編集マンは、「決定に従う」態度をとる。

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大雲アンカーは、3か所の訂正要求をひっこめる代わりに、
「ドイツにも言論弾圧はあった」
という内容を盛り込むようにと交渉、
それがダメならジャーナリストの反対声明をけずれと、

番組はどんどん本来の形を変えていく。

決定打は、急きょ、放送局の会長ら「お偉いさん」たちの試写が行われ、
「内容を変えろ」と命じられたこと。

必死に「報道」を守ろうとする今森と来宮はどうするか。

「空気」の作られ方

公権力による電波停止は実際なくても、におわせることで、
問題を起こすまいと自己規制や忖度に向かう人が出てくる。

自己規制や忖度というのは、
「三か所の訂正」という表現を変えることや、
「反対声明をけずれ」と、事実を報道しないこと、

また、「ドイツにも言論弾圧はあった」という「事実」を報道する
というのは、聞こえはいいけれど、
その後、裁判で弾圧は罰せられているがその「事実」は報道しない。
都合のいい「一部のみの報道」。

報道が「空気に飲まれた」という態度を見せると、
直接的な苦情や抗議が、しやすくなる「空気」も生まれる。
ヘイトスピーチの温床となるわけです。

衝撃的な結末(ネタバレ)

ラストが衝撃的でした。

そもそも、この報道の自由に関する特集は、
少し前に、戦う報道マンの桜木という人が自殺しており、
桜木の志をつなごうという気持ちで、
今森と来宮らが、作った特集でした。

社内が、どんどん委縮して、事なかれになり、
忖度、自己規制に走ろうとするのを、

ジャーナリストとしての良心や、
桜木に対する申し訳なさや、
何より将来への危機感から、
必死に抵抗する人たちの末路は。

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今森編集長

試写会で「内容変更」と指示を出したお偉いさんに、
会社をクビになる覚悟で、直談判しにいったけれど、
絶望と混乱から、会社の屋上から飛び降りてしまいます。

来宮キャスター

悩む今森をけしかけるほど、妥協を許さなかった来宮ですが、
番組に苦情をいってきた「報道を正す会」から
脅迫まがいのメールが来ます。
介護中の母親に危険が及ぶ恐怖から、寝返ります。

丹下デレクター

番組の内容修正圧力に抵抗しようとしたけれど、
会社トップの命令にまでは逆らえない、板挟みに苦しみ
体力的に限界超えて倒れ込む。

花田編集マン

会社の命令だからしょうがない、自分の意見なんて関係ない、
言われた通りに働きます。

そして2年後

今森編集長は、屋上からとびおりたけれど、
植木にひっかかり、命はとりとめ、会社は退職。

花田編集マンは「偏向報道を正す会」のメンバーになっていて、
丹下デレクターは、退社して宅配ドライバーになっていて、
来宮キャスターは、会社のお偉いさんになっていて・・・。

今森編集長は、体が回復してきたので、
「調査報道をやろうとおもっている」と来宮に言います。
それに対する来宮のセリフ。

「それは危険よ。あれから憲法が改正されて、法律も変わって、
調査報道なんてやったら捕まるわよ。
私がこうしてあなたと話しているだけでも危険なんだから」
妥協を許さず戦っていた人が、こうも変わってしまうとは。
母親を、家族を守るためだったのでしょう。

あーー、結局、空気を読んだ人々が残り、
空気に取り込まれまいとすると、組織を離れるしかないのか。

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調査報道

今森は、放送局をやめて、調査報道をやろうと思う
と言っていました。

政府の発表や警察発表を情報源とする報道は信用できない、
ということを身を以て思い知り、
自分で情報を取材して報道するというスタイルを選ぶと。

表現を変えたり、事実の一部のみ切り取ったりされる前の、
一次情報を自ら集めて報道するということです。

調査報道という言葉は、清水潔さんの本で知りました。
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他人ごとではない危機感

隣国に関するニュースも、
「過激な」デモが行われているというか、
「平和的に」デモが行われているというかで、
印象が変わってきますし、

日本に批判的な人もいれば、日本を好きな人もいるのに、
批判的な人のインタビューだけを紹介するとか、

表現を変えたり、事実の一部のみを報道して
嫌韓の空気を作ることは可能だと思います。

そういうことを考えると、近未来のホラーを見た思いでした。

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