こまつ座『私はだれでしょう』まさに「今」の物語

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井上ひさしの作品を上演する「こまつ座」は、都合がつく限り見に行きます。期待を裏切られたことがないので。

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キャスト

こまつ座第116回公演『私はだれでしょう』
2017年3月5日から26日
新宿・紀伊国屋サザンシアター

演出:栗山民也
北川京子:浅海ひかる
フランク馬場:吉田栄作
山本三枝子:枝元萌
佐久間岩雄:大鷹明良
高梨勝介:尾上寛之
脇村圭子:八幡みゆき
山田太郎?:平埜生成

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公演パンフレット

あらすじ(ネタバレあり!)

終戦の翌年、ラジオの「探し人」コーナーを担当するNHKラジオが舞台です。
戦前は国策を宣伝するラジオだったので、戦後は「民主的なラジオ」にしようと頑張っている人たちの物語です。
そういう熱い思いをもって、GHQの事前検閲と闘います。

アメリカを悪く表現すると検閲にひっかかるので、
たとえばニュース原稿で、
「アメリカ兵が女性を手籠めにしてジープで逃げた」とは言えないので、
「大きな男が乱暴して速い車で逃げた」
という表現に変える。
しかも、検閲前に「自己規制」「忖度(そんたく)」して変える。

言葉の言い換えといえば、
自衛隊の南スーダンの件では、「戦闘行為」か「武力衝突」か、
森友学園の件では、「虚偽答弁」か「記憶違い」か、
などなど、今でも新聞みるとこの手の話はいつもあります。

この言い換えを報道現場が自ら行ってしまう「自己規制」、
最近見た二兎社の『ザ・空気』のテーマでもありました。

ラジオコードというタブー

GHQは、先の戦争の被害について表現の制限をもうけ、それがラジオコードというタブーになっていました。

舞台の「尋ね人」欄の担当者たちは、ラジオコードの最たる項目「原子爆弾」は、無意識のうちに避ける習慣があり、広島・長崎から送られてきた「尋ね人」は一切放送していません。

無意識の「自己規制」に気が付き、広島からの尋ね人を取り上げる決心をする。
そのため、検閲済みのハンコを偽造する。

放送は大反響を呼びましたが、担当者は刑務所に送られてしまいました。


私はだれ?の問いかけ

「尋ね人」は、戦争で離れ離れになってしまった家族や知り合いを探してくれ、という依頼ですが、中には、
記憶を失ってしまった自分が何者なのか知りたい
という依頼の手紙もありました。

その一人が「山田太郎?」でした。
軍服に書かれていた名前がは山田太郎」ですが、いかにも偽名臭い。

山田太郎は、ラジオ局に出入りしながら、
ラジオ担当者たちの事前検閲との闘いを手伝います。

手伝いながら、マルチな才能を発揮するのですが、
剣道・柔道・護身術などの武芸の達人で、
鍵破り・ハンコの偽造・特殊記憶力など妙な能力を持ち、
なぜかタップダンスまでプロ級。
・・・どうみてもこの能力、スパイでしょ。

はたして「山田太郎」の正体は、
陸軍高官の父をもつ戦地での「残地諜者」。
つまり、戦争を積極的に進める側の人間でした。

でも、彼は父への反抗からスパイとして潜り込む手段として、
「敵国文化」であるタップダンスを選んだといいます。
そして、記憶が戻っても父のもとには戻らない、と。

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公演パンフレットより

ブラックリストとホワイトリスト

パク・クネ政権で作られた「ブラックリスト」。
耳新しいこの言葉も出てきました。

登場人物の高梨という男性は、組合活動員です。
NHKでも組織の民主化のためにストライキの先頭に立つほど熱心。

ところが高梨は、ブラックリストではなくホワイトリストに名前があった。
ホワイトですから、反政府要注意人物ではなく、政府協力者リストです。
当然ブラック側だと思っていたのになぜ???

その理由は、
過激な組合活動をすればするほど、一般国民は、
「危険な活動は規制しなければならない」
「政府のコントロールが必要だ」
と思うようになるからだ、というものでした。

高梨は、戦時中、よろこんで特攻隊になった人です。
自分でもしらないうちに、またまた使い捨ての弾(たま)になっていたのか、
と肩を落とします。そりゃ、ショックですね。

よかれと思っている言動や行動が、
一皮むいてみてみると、
思わぬところで、相手側に利用されていたとは。
これに気が付くためには、どうしたらいいのでしょう。

ラジオに耳をすますように、相手の話をよく聞き、
「私はだれなのか」常に問い続けること、でしょうか。

ほかにも、吉田栄作が演じたフランク馬場は、
アメリカ生まれで父親が日本人という背景を背負っていますが、
GHQ側なのか、こちら側の味方なのかと問われて、
「国籍や民族とは関係なく、私は人だ」
と答える場面にもウルっときました。

70年前を舞台にして、
10年前に書かれた戯曲ですが、
まさに「今」につながる物語でした。

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