鄭義信三部作のラスト『パーマ屋すみれ』-炭鉱、組合、在日、労災、救いがない中で笑う
『焼肉ドラゴン』『たとえば野に咲く花のように』に続いて、三部作のラスト『パーマ屋スミレ』を見てきました。
キャスト
新国立劇場小劇場
2016年5月17日から6月5日
作・演出:鄭義信
スミ:南 果歩
初美:根岸季衣
ひで:村上 淳
なる:千葉哲也
しげ:久保酎吉
大大吉:酒向 芳
昌平:森下能幸
父:青山達三
春美:星野園美
大吉:森田甘路
若松:長本批呂士
茂一:朴 勝哲
『焼肉ドラゴン』の感想。
『たとえば野に咲く花のように』の感想。
あらすじ(ネタバレあり)
『焼肉ドラゴン』で、炭鉱が閉鎖されて、労働者が万博準備の建設労働に
流れてきている、という話がありました。
『パーマ屋すみれ』は、その炭鉱が閉鎖される前の物語です。
初演が2012年で、それがテレビで放送されたものを見ました。
ほぼ記憶になかったのですが、今回、舞台の幕があいたとたん、
テレビで見た記憶が、恐ろしく悲しい物語が、思い出されて、
春美(星野園美)と夫のしょうへいさん(森下能幸)の登場で、
ものすごくコミカルな二人なのに、
しょっぱなから、泣けて泣けて、涙涙の観劇でした。
祭りの夜に、炭鉱事故
九州の炭鉱の町、アリラン峠の祭りで、
スミ、初美、春美の三姉妹とそのつれあい・家族たちが
笑ったり、怒ったりしている中、炭鉱事故が起こります。
炭鉱で働いていた春美の夫しょうへい、
仲間を助けに行ったスミの夫なるさん、らが、
COガス中毒被害にあいます。
労災認定、組合闘争
ガス中毒の症状は、耐えられない頭痛や精神錯乱、体の麻痺などですが、
当時、詳細はわからず、「3年の間に治る」とかなんとかいって、
まともな補償もされず、生活は苦しくなる一方。
炭鉱も石油の勢いに押され、閉山の危機にある中、
労働組合も腰抜け対応で、「がんばろー」の掛け声だけでアテにならず。
初美の夫(籍はいれていないけど)が組合長で、
組合活動も夫としても「掛け声だけ」というクダラナイ男です。
CO患者救済の特別法ができたと喜んだのもつかの間、
特別法の中身は、救済どころか、患者切り捨てのものでした。
見捨てられた果てに
会社から見捨てられ、組合にも見捨てられ、
CO患者救済法にも見捨てられ・・・
患者たちは炭鉱夫、つまり男たちだから、
病気の体もつらいけれど、家族の負担になっていることも耐え難い。
「殺してくれたらすべての痛みから解放される」
しょうへいさんの、必死の訴えに、
春美は夫、しょうへいさんを殺してしまいます。
炭鉱が閉鎖され、働き場を失った初美家族は大阪へ。
警察へ出頭した春美は刑務所へ。
みんなが去ったアリラン峠に、スミは夫なるさんと残ります。
芸達者な役者さんたち
感想
閉山間際の炭鉱事故で、CO患者となった在日家族の話。
あらすじは、本当に残酷でつらくて、暗くて、バッドエンドですが、
舞台は、終始にぎやかです。
3姉妹のさわがしい性格、男たちのダメっぷり、惚れたはれたの男女のからみ、
絶望的な状況でも、笑いがあったり、恋心があったりします。
歴史に翻弄されながらも、ひとりひとりの、逞しさ、弱さ、ずるさがある。
よぼよぼのお父さん
スミ姉妹の、よぼよぼのお父さんは、あまりしゃべりません。
でも、言葉少なく、インパクトある言葉を残します。
自暴自棄になって刃物を振り回すなるさんに「生きなあかん」
しょうへいさんを殺してしまった春美にも「生きなあかん」
戦前戦後を生きた在日のよぼよぼのお父さん、
語られないけれど、過酷な人生だったのだろうと、思います。
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大吉の今、昔
大吉は初美の息子で、劇中では高校生くらいなのですが、
大人になった大吉が、ナビゲーターとして登場し、劇中もずっと、舞台のどこかにいて、当時の人々を見守っています。
最後には、登場人物それぞれの「その後」を説明します。
つまり、舞台上は1970年代ですが、大人の大吉は「今」の人として登場するので、
この物語が「過去のこと」ではなく、「今につながる話」だと感じさせる存在です。
ファッションデザイナーになるのだと天真爛漫な少年だった大吉が、
分別ある銀行員になっている。
現実社会ってそうだよな、という寂しさもあります。
ひらひら舞うラスト
『焼肉ドラゴン』のラストは、桜の花びらが舞っていました。
『パーマ屋スミレ』のラストは、雪の花びらが舞いました。
焼肉でもパーマ屋でも、家族たちはバラバラに旅立ちます。
希望にあふれた旅立ちではなくて、苦難の旅路。
その苦難が、現在にも続くものだというのが、またせつなくて。
泣き続けた3時間でした。
鄭義信三部作
『焼肉ドラゴン』の感想。
『たとえば野に咲く花のように』の感想。
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コメント
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2018年 3月 15日
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