鄭義信作『焼肉ドラゴン』感想-1970年代の在日朝鮮人物語「働いて、働いて、働いて・・・」

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焼肉屋一家の、娘たちの結婚、離婚、不倫、息子のいじめなどでどたばたする中、焼肉屋が立ち退きを迫られ、娘たちはそれぞれ伴侶を得て、家族ばらばらそれぞれに旅立っていった、という話です。

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どたばた泣き笑い劇でした。が、実は号泣しました。舞台見て号泣するって何年ぶりでしょう。
感想のまえに、ざっと概略。

新国立劇場・小劇場
鄭義信 三部作 Vol.1
(三部作 Vol.2『たとえば野に咲く花のように』の感想はこちら
2016年3月7日~3月27日

キャスト

作・演出: 鄭 義信
金龍吉(焼肉ドラゴン店主):ハ・ソングァン
高英順(その妻):ナム・ミジョン
金静花(長女):馬渕英里何
金梨花(次女):中村ゆり
金美花(三女):チョン・ヘソン
金時生(長男):大窪人衛
哲男(梨花の夫):高橋 努
長谷川(美花の恋人):大沢 健
尹大樹(静花の恋人):キム・ウヌ
呉日白(梨花の恋人):ユウ・ヨンウク
常連客:櫻井章喜、朴 勝哲、山田貴之

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あらすじ(ネタバレあり!)と感想

開演前から舞台では、肉を焼き、客席にも匂いが。なかなか不思議な空間。
すでに芝居が始まっているかのようなテンションで、太鼓をたたき、歌を歌い、にぎやかにぎやか。
テンションの高さに、役者さんたち、本番の体力大丈夫かしらと心配してしまうほど。

梨花の結婚パーティー

そのどんちゃん騒ぎは、梨花と哲男の結婚パーティーが始まるのを待っている人たちでした。
しかし、当の二人が帰ってこない。
やっと来たと思ったら、婚姻届を出しに行った市役所で、哲男が役所の人と喧嘩したと言って、
梨花は「結婚はとりやめ!」と怒って引っ込んでしまいます。

そのやり取りの中で、哲男は梨花の姉の静花の恋人だったけれど、
静花が足を骨折して障害をもってしまったので、哲男は梨花を選んだ、
ということがわかります。

哲男が梨花に頭をさげて、梨花があっさりゆるし、梨花は哲男に惚れてるんだなあ、という感じ。
韓国から働きに来ている呉日白や、梨花の両親、三女の美花などが、韓国語でしゃべるときには、字幕が出ます。
ただ、韓国語の、어땠어요?の字幕は、「どないでした?」
大阪弁ワールドです。

わたし
とにかく騒がしい。
私は、キャンプファイヤーでみんなと踊ったり、コンサートで観客が舞台に上ってみんなで盛り上がったり
ということが苦手ですが、ああやって盛り上がりの中に自然に入っていけたら楽しいんだろうなあ、
とうらやましくは思っています。
芝居の中の登場人物みんなが踊りだすとか、歌いだすとか、そういう「身内」の盛り上がりを見ながら、
私が、こういう輪に自然にはいることができる性質だったら、
韓国人と結婚していたころの親戚づきあいというのが、うまくできたのかなあ、なんてことを考えたりしました。

静花の恋人

静花は日本語が全然できない大樹という韓国人を店に連れてきまず。
お母さんが「あんた、密入国じゃないの?」と聞くと「パスポートはある」と。
「いまどき、お金があればパスポートも買えるからね」というと「あはははは…」。

大樹は、静花のお蔭で、あっという間に(ちょっと変な)日本語をマスターしてしまいます。
さらに静花にぞっこんに惚れてしまいます。そしてさらに砂利を売って「成金」っぽくなります。

でも、お母さんは「あんたは美人なんだから、もっといい人がいるはず」。
静花は「こんなカタワ、誰が・・・」

わたし
それって大樹に失礼でしょ!とつっこんでしまいました。
1970年前後、今から40年以上前だったら、障碍者に対する差別は、今と比較にならなかったのでしょう。

静花の元恋人、梨花の夫・哲男

炭鉱が閉鎖され、労働者があまるようになったために仕事がないといって、働いていません。
梨花に「働け」と言われると、

自分ら在日は歴史に振り回されている、
日韓基本条約が間違っていたんだ、
差別社会で努力しても報われない、
金嬉老は俺たちの思いを代弁してくれた、
云々かんぬん、口は達者です。

国有地だからと、この地域が立ち退きを迫られていることへの反対運動もやったり、
在日社会のための運動もしたり、炭鉱で働いたり、いろいろやってきたけれど、
「それでも心の穴は埋まらない」。
最後は、北朝鮮へ渡ることを決心します。そして静花に「俺の心の穴を埋めてくれ」と。

わたし
このキャラクター、腹立たしいながらも、実は一番感情移入できてしまいました(まずいよなあ・・・)。
世の中を分析して、自分と歴史を相対化すると、
自分の置かれている現状は「世の中のせい」であるから、
努力したって変えられるもんじゃない
と思って嫌になってしまう、という気持ちはものすごくわかります。

金嬉老事件は1968年、暴力団をライフルで射殺した金嬉老が寸又峡温泉に人質をとってたてこもり、
在日朝鮮人に対する差別を謝罪しろと訴えた事件です。

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美花の恋人

焼肉ドラゴンの主であるお父さんとお母さんは、ともに再婚同士で、
上二人の娘はお父さんの連れ子、三女の美花はお母さんの連れ子、長男時生は二人の子供、
という家族構成です。

三女の美花は、歌手になるのが夢で、現在はクラブで歌を歌っていて、
そのクラブの支配人、長谷川と付き合っている。
長谷川には実は妻があり、妻が焼肉屋にきて大騒動になったり。
でもきちんと離婚して美花と結婚します。

わたし
この長谷川という人物はなかなか興味深いポジションでした。
最初、お父さんとお母さんは反対された時、彼は「僕が日本人だから結婚反対なんですか?それは差別だ!」と言います。
そして、お父さんお母さんに、一生懸命覚えた韓国語であいさつしたり。
在日の人たちは、日本人が大多数の中で差別をうけ、日本語を強要されてきた。
その在日が大多数である焼肉ドラゴンでは、日本人の長谷川がマイノリティになっていたわけですね。

焼肉ドラゴンの主、お父さん

戦争で片腕をなくし、日本で強制労働させられ、終戦で帰国しようとしたら家財道具一式乗せた船が沈没し、
済州島に帰国したけれど4.3事件で故郷が焼かれ、帰る故郷を失って日本で暮らしている。

言葉は少ないけれど、ここぞというところで家長の存在感を示します。
梨花が「哲男は静花がまだ好きなのよ」と泣きわいたときには、一人にしてやってなだめてやり、
長谷川の妻と美花との大乱闘の時にも、長谷川の妻に頭を下げて騒ぎを収め、
妻と離婚したから美花との結婚を許してくれと言われた時には・・・。

「故郷を失って、妻を失って、娘二人抱えて働いて、働いて、働いて、
今の妻と結婚して娘三人になって、働いて、働いて、働いて
そうやって大事に育ててきた娘を、よろしく頼むと、長谷川に頭を下げました。

わたし
このお父さんの身の上話には、客席から鼻をすする音が聞こえてきました。
同じ経験を共有する人はどんどん減ってしまっていますが、この経験を伝え聞いてきた人たちが大勢いると思います。

済州島4.3事件はパンフレットにも詳細説明がありました。
第二次大戦が終わった後の1948年、米軍主導による南だけの単独選挙に反対した人民蜂起に対して
行われた無差別鎮圧=大量虐殺事件です。

時生

舞台オープニングで、トタン屋根の上に上がって、
「僕はこの町が大嫌いです。男たちは昼間から酔っぱらって、女たちは亭主の悪口をいって、
本当に騒がしくてうるさくて、大嫌いです」と叫びます。

時生は、親が苦労して入れた私立学校でいじめにあっています。
お母さんは「わが子を守るのは親しかいないでしょう!」と抱きしめ、公立学校への転校も考えますが、
お父さんは「日本で生き抜くには、こんなことで負けてちゃいかん!」と叱咤激励します。
そして、時生は・・・、トタン屋根から飛び降りてしまった。

そして、エンディング。死んだ時生が、またトタン屋根に上がって、
「僕はこの町が大嫌いです」と同じセリフを繰り返し、「でも大好きでした」と。

わたし
お父さんが生きてきた時代の厳しさとそれに抗う努力と。
同じようにはできなかった、同じ努力では生き抜けなかった。
時生は、ほかの登場人物とは違って、どんちゃんさわぎにも参加しなかった。
時を生きる時生。どういうポジションだったのか、もう少し考えてみます。

泣かせどころ

焼肉屋のある場所は、戦後の混乱期に在日の人たちがバラック小屋を建て、生活を始めたけれど、本当は国有地です。
お父さんは、「俺はちゃんと買ったんだ、佐藤という人にお金を払って、買ったんだ」と言い張りますが、
登記もしていないのだから、なんの根拠もありません。

そして、ついに市役所の役人がやってきます。
「補償金払ってやるんだから」という偉そうな態度の役人に、お父さんは「帰れ!」と腕を振り上げます。
すると役人は「だから朝鮮人はすぐかっとなる」だのなんだの。
我慢できくなったお父さんが、役人につかみかかろうとして、また大乱闘となるのですが。

日本で、働いて、働いて、働いて、がんばって家族を支えてきたこの場所。
働いて、働いて、働いてきたこの人生を、まったく顧みない役所、この社会。
「だったら、この腕を返せ!時生を返せ!」と、叫んでいました。

お父さんの叫びに涙があふれ、大乱闘が終わったあと、
珍しく舞台は水を打ったように静まり返ります。
そこで、三女の美花が、空き瓶を手に歌いだし、いつもの騒がしさが戻ります、涙まじりに。
そして、お母さんがお父さんを抱きしめながら、
「私もまだまだいけまっせ。人生あきらめられへん。お父ちゃん、今夜、息子つくりましょうか?」

わたし
最悪の事態であっても、どんなに涙を流した後であっても、決して笑いを忘れない、騒がしさを忘れない。
次から次に困難はやってくるのだから。
それを単に「たくましさ」とか「強さ」と言ってしまうと、なんだか違うような気もする。
そして、そういうのが嫌だけど好きだった、けど生き抜けなかった時生のような存在も少なくなかっただろうし。
泣き笑いしながら、このシーンを目に焼き付けておきました。

ラスト

強制立ち退きさせられた焼肉ドラゴン。
静花と哲男は北朝鮮へ。
梨花と恋人の呉日白は韓国へ。
美花と長谷川は、出産を控えている。
家族はばらばらの旅立ちの日を迎えました。

子供たちを見送り、二人きりになったお父さんとお母さん。
桜吹雪が美しく舞っています。
「こんな日は、昨日がどんな日であったとしても、
明日を信じられる」
といって、お父さんはリヤカーをひいてお母さんと去っていきます。

でも、北朝鮮での暮らしは今よりもっと大変だろう。
お父さん、お母さんの暮らしは、いったいどうなるんだろう。
40年たっても日本社会はヘイトスピーチを生んでしまっている・・・

トタン屋根の上で、時生が手を振っています。
過剰に降りしきる桜吹雪が、本当に美しいほどに、余計悲しくなりました。

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号泣しながら、本当に見てよかったと思いながら、一つだけ注文を付けるとしたら、
済州島が故郷の夫婦なのですから、韓国語のセリフは
済州方言でやってほしかった。
どうせ字幕がでるのですから、韓国語が聞き取れなくても問題なし。
きれいなソウル言葉のほうが、むしろ違和感でした。

そういう在日こてこてのお芝居が、
しかもこんなに日韓関係が悪い時代に、
新「国立」劇場という場所で上演され、しかも満席。
それだけでも感激です。

そしてこんなに長い感想を、最後まで読んでくださって感謝です。

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