東京芸術座『KYOKAI心の38度線』、ピアニスト崔善愛のお父さんの話

leaves-449622_640

1970年代を、マイノリティたちはどう生きていったか、マジョリティたちはどう受け止めたのか。

スポンサーリンク

崔善愛さんのお父さん

在日韓国人のピアニスト、崔善愛さんのお名前はよく見かけます。そのお父さんが人権活動家だったことも知ってはいました。それがお芝居になるというので、楽しい内容ではないだろうと覚悟しながら見に行ってきました。

パンフレット
1hira1

崔善愛さん
1hira2
パンフレットより

『KYOKAI 心の38度線』

崔善愛さんのお父さんは崔昌華さん、九州の小倉で牧師をしていました。
1930年生まれで、1954年に来日した在日1世です。

1hira6
パンフレットより。

来日後、関東大震災の朝鮮人虐殺の話を聞いて大きなショックを受け、
在日韓国・朝鮮人の人権運動を始めました。
お芝居は、その人権運動の具体例を紹介していくものでした。

金嬉老事件

1968年、在日朝鮮人の金嬉老(キム・ヒロ)が、朝鮮人差別を告発するために、宿泊客を人質にとって旅館に立てこもった事件。

当時のキム・ヒロ
1hira5

この事件で、崔昌華牧師は金嬉老を説得するために、
九州の小倉から事件現場の静岡県寸又峡へ飛んでいったそうです。
「死んで詫びる」という金嬉老に、同じ差別を受けるものとして、
生きて戦おう、と説得しました。
が、崔牧師の真意が伝わるまで、長い時間がかかりました。

事件から40年後(2008年)のキム・ヒロ。2010年韓国で死去。
1hira3
ユーチューブで「金嬉老事件」を検索すると、
検証ドキュメンタリーなどの番組が見られます。

わたし
静岡に引っ越してきたその年に、私は寸又峡温泉のふじみや旅館を訪ねていきました。旅館の入口に金嬉老事件の新聞スクラップなどの展示があり、知る人ぞ知る観光名所でした。数年前に旅館は廃業してしまったので、今はどうなっているのかわかりません。
差別告発とはいえ、手段は明らかに間違っていました。しかしその後、この事件を解説する書籍、有名俳優出演のドラマができたり、「金嬉老を生み出した社会」を深く考えるきっかけになったのは確かです。

NHK名前訴訟

当時の新聞・テレビでは、韓国人の名前は日本語読みされていました。
金大中は「キンダイチュウ」、崔牧師は「サイ牧師」。
それを、名前の読み方は「人格権」であると主張し、NHKを相手に
民族語音で読むことを要求し提訴しました。

最高裁で棄却されたものの、その後、テレビや新聞でも外国人の名前は
民族音読みが採用されるようになります。

わたし
1970年代は、まだ在日1世2世たちが中心だったので、母国語読みにこだわざるを得なかったと思います。その後、良くも悪くも日本社会への「同化」が進み、「日本人でもない、韓国人でもない、在日」としてのアイデンティティが確立されていくと、韓国式の名前を日本語読みしたものが自分のオリジナルだという人もいたり、名前へのこだわりも、多様化していると感じます。

スポンサーリンク

在日朝鮮人の無縁遺骨収集

崔牧師は九州在住だったので、
戦時中に炭鉱で多くの朝鮮人たちが従事させられ、
最も危険な現場で多くの命が犠牲になった、
しかし、異国の地ゆえ遺骨が放置されている、
という現実を知り、彼らのための納骨堂を建設しました。

お芝居は、ドキュメンタリーのように解説調だったので、泣いたり笑ったりはありませんでしたが、唯一泣いたのが、炭鉱事故で息子ジョンウンを亡くしたお父さんでした。
崔牧師が、生前のジョンウンから送られた葉書をお父さんに見せるシーンで、慟哭するお父さんに泣かされました。

わたし
個々の人生、個々の家族の痛みはもちろん忘れられないことです。でも崔牧師が使命として感じたのは、「社会」が忘却する危険だったと思います。
遺骨が放置されているというのは、彼らの存在が忘れられているということで、それは炭鉱で最も危険な作業を朝鮮人が行っていたという「事実」が消されてしまうことなのだ、ということです。

『KYOKAI 心の38度線』全体の感想

在日のお話でしょ(私には関係ないわ)、と言われかねない題材ですが、
炭鉱労働者の「日本人の給料の半分だ」というセリフに、
登場人物の女性記者が「女はどんなに頑張っても給料は男性の半分」
「朝鮮人は日本名を持たざるを得ない」というセリフに、
部落出身の女性が「名前で部落と分かるから名前を変えて生きてきた」

という具合に、在日だけの問題ではない、ということが
強く表現されていました。

でも、崔牧師のテーマはあくまで「在日」であり、
差別される側に共にいる部落出身者や、女性に対して、
崔牧師は特にコメントしません。
さらに、娘には「日本人と結婚なんて許さん」。

社会問題と戦っていると、不完全でいびつな自分の内面も見えてくる。
それを娘になじられもする。
人生、大変だなあ。

一般ウケには難しい題材ですが、
ヘイトスピーチや、アメリカでトランプ現象が起きる時代に、
崔牧師の闘い、金嬉老の闘いを思い出さねばと、確かに思います。

スポンサーリンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

コメント

    • ぽむ
    • 2016年 9月 15日

    あんにょんはせよ^^
    書かれたもの読んでいるうちに以前読んだ
    帚木 蓬生の《三たびの海峡 》という作品を思い出しました。
    韓流始まるもっともっと前に読んだ本です。
    このタイトルに深く感じるものがありました。
    そして、話の中に確か、ことわざシリーズで書かれていた
    トラが出てきたかと。
    どんな窮地であっても抜ける道はある。
    そんな意味のことわざだったと思います。

    言葉にとても興味があるので、ことわざシリーズ楽しく読ませて
    いただいています。
    こんな風にひもときながら韓国語を深く知ることができたら良いなあ。
    先日、忘れ物をして、それすら伝えることができなかったわたしですが(^^ゞ

      • sokjon2016
      • 2016年 9月 15日

      ぽむさま
      こんにちは!
      『三たびの海峡』存じ上げませんでしたが、ちょっと検索してみたところ、
      読んでみたくなる内容ですね。
      教えていただいてありがとうございます。
      トラの出てくることわざリストを見てみました。

      호랑이에게 물려 가도 정신만 차리면 산다
      トラに襲われても、精神さえしっかりすれば生きられる

      「どんな窮地であっても抜ける道はある」に近いと思いますが、
      どうでしょう?

      ことわざシリーズ、気に入っていただけてとてもうれしいです。
      地味なシーンに出てくることが多いので、
      イケメン主人公の口からことわざが出てこないものかと探しています。

      うれしいコメント、ありがとうございます!

    • matchko88fujii
    • 2016年 8月 23日

    안녕하세요? matchko88fujii입니다.
    한국어를 배우면서 한국의 역사에 무관심한 것은 있을 수 없습니다. 당연히 전 전쟁 때 일본이 범한 과오도
    직시하지 않으면 안 됩니다. 그리고 거기에서 지금의 일본 사람들이 해야 할 일을 꼭 주시하는 필요가 있다고
    새각합니다. 다른 사람들을 발판으로 하여 구성되는 사회를 저는 원하지 않습니다.남의 일이 아니니까요.
    그래도 현실은 그렇지 않습니다.많은 희생은 낳은 역사로부터 배워야 없으면 안 되는데…

    오늘도 제 서투른 글을 읽어 주셔서 감사합니다.
    앞으로도 기대하고 있습니다.

      • sokjon2016
      • 2016年 8月 23日

      matchko88fujii님!
      안녕하세요?
      저도 똑같이 생각합니다.
      이창동이라는 영화감독이 있는데요, 어떤 인터뷰에서
      과거의 연장선상에 미래가 있기 때문에
      미래를 이야기 하기 위해서는 과거를 알아야 한다고 했어요.
      정말 맞는 말입니다.
      이창동 감독이 찍은 작품은 다 좋아요.
      그중에서 영화 “박하사탕”은 “과거에 연장선상”이라는 것을
      구체적으로 표현한 작품입니다.

      정말 좋은 글을 남겨주셔서 감사합니다.
      항상 고맙습니다.

  1. この記事へのトラックバックはありません。

2017年12月
« 11月    
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031
ページ上部へ戻る