読書『少年が来る』ハン・ガン著 重たい内容のベストセラー

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映画レビューではなく小説です。もともと小説というものはほとんど読まないのですが、買って読みました。

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1980年光州事件が舞台の小説

私は光州事件当時、14歳の中学生でしたが、リアルタイムのニュースの記憶はありません。
でも、20歳でソウルに留学した春が、1987年民主化運動の真っただ中でした。
学生たちの演説や投石、火炎瓶、催涙弾などを目の当たりにしました。

子供の父親が光州育ちなので、親戚や友達たちが光州事件の「証言」をたくさんしてくれました。

「この人は当時のリーダーで、今も彼の声を思い出す」
「正しい人が牢屋の中に、犯罪者が牢屋の外にいる」

というような話を、1987年の自分の経験に重ねて「今」の話として聞いていました。

ただ、ソウル留学中に、民主化運動に興味を持つ私に、
「日本人のお前がなぜ関わってくるのだ」と問われて、
気まずい思いをしたことも合わせて思い出されます。

親しくなった友人たちの問題だから、
隣国の政治は日本にも関係があるから、
政治的葛藤を克服する過程を学びたいから、
韓国の人々を理解したいから、

いろいろ理由は説明できますが、
渦中の人々には、
「お前にとっては他人事だろう」と思われていたでしょう。

そんなこんなで、新聞の書評で「光州事件を舞台にした小説」と説明されていたので、読んでみようかなと思っていました。
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残された者の使命感

光州事件については、映画やドラマの素材にもなっていて、
それは、忘れてはいけない、記憶しなくてはならない、
という動機が大きくあります。

死亡者163名、行方不明者が166名、負傷後亡くなった人が101名

この数字は、チ・チャンウク出演のミュージックビデオにあるものです。

光州事件の悲惨さを数字で語ることが多いですが、
ありきたりかもしれませんが、数字の一つ一つに、生活があった。
死亡者のひとりひとりに、残された家族友達がいる。

抽象的な数字や言葉ではなく、
具体的な個人の人生や生活だったということを、知らせたい。
いろいろな場で、そのような努力がなされています。

やはり小説は性に合わないけれど

冒頭から、
「雨が降りそうだ。
君は声に出してつぶやく。」
しばらく読んでも、「君」が誰かわかりません、「僕」が誰かわからないので。

しかも、
「ゆれる枝の間から、風の形がだしぬけに現れるかのように」
と続くと、風の形って、なに?と、理解しようとする気が消滅します。

分からないことを分からないままにして読み進めるのが苦痛で、
だから特に独白調の私小説は、めったに読みません。

それにもかかわらず、最後まで中断することなく読めました。
当時の資料を探して読んで、伝えようという作者の想いがあるから、
「分からない」ことを分かりたいとか、
理解しにくいけれど、理解しようと、思いました。
私が読破した数少ない小説リストに加わりました。


死んだ人も残された人も

自然災害でも、戦争でも、
親しい人を亡くした人々、残された人々が、
喪失の苦痛や、助けられなかった自責などの苦しみをつづったものは、
本当に読んでいてつらいです。

『少年が来る』でも、やはり残された人のその後が壮絶です。
それでも目をそらせない。

小説は、
戒厳軍の総攻撃があるとわかっていて、道庁に残った少年、
弟をなぜ連れ戻せなかったのか、しこりが残る家族や、
拷問の経験から日常生活を取り戻せなくなったり、
記録を残すために経験を語ってくれという依頼に苦しんだり、
読み進めるのがつらい内容です。

1961年に軍事クーデターがあり、1979年に朴正煕が暗殺され、
光州事件を経て、全斗煥・盧泰愚政権ののち、
1992年から、ようやく文民大統領の時代になったものの、

2016年、朴槿恵大統領が弾劾されました。
朴正煕の政治手法をそのまま引き継いだためであり、
70年代80年代の、「力による支配」という習慣が、
清算しきれていなかったためです。

だから、
出来事の記録、歴史の内省、犠牲者への鎮魂のために
伝え続け、読み進めなければならない・・・

書けば書くほど、重苦しい小説です。

しかし、2016年5月の朝鮮日報に、
ソウル市内大型書店とインターネット、地方書店での販売量ランキングが出ていました。

1位同点「菜食主義」(ハン・ガン)、「種の起源」(チョン・ユジョン)
3位「完璧ではでないものたちに対する愛」(ヘミン)
4位「少年が来る」(ハン・ガン)
5位「嫌われる勇気2」(岸見一郎・古賀史健)

ベストセラー第4位にランキングされています。
韓国社会は、こうした重たい想いから目をそらしていないんですね。

このランキング、5位に目が行ってしまいますね(笑)。

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